鳶職・足場職人に多い身体の不調とは?腰痛・膝痛・手のしびれと仕事を続けるための対策

鳶職に多い体の痛みの解説

住宅街を歩いていると、どこからか一定のリズムで「カン、カン」と金属音が響いてくることがあります。

見上げてみると、建物の周囲に少しずつ足場が組み上がっている。

熟練した職人の中には、戸建て住宅一棟分の足場を一人で組み上げてしまう人もいると聞きます。現場によっては1200点以上にもなる単管や支柱、踏板、手すり、筋交いなどの部材を、建物の形に合わせて次々と組み合わせていく。

「大人のレゴブロック」と言ってしまえば簡単ですが、実際には一つ部材を組むたびに安全を確認しながら、それでもものすごい勢いで足場が出来上がっていきます。

完成した足場を見ると、一種の芸術性すら帯びているのではないかと思うことがあります。

余談ですが、我が家の外壁塗装をした時にも、熟練した職人さんが驚くほどの速さで足場を組み上げていきました。屋根まで届くからと、ついでに雨どいまで清掃してくれたことを今でもよく覚えています。

外から見ると軽々と作業しているように見えます。しかし実際には、重量のある部材を運び、持ち上げ、受け渡し、高所を移動し、狭い場所では身体をひねり、不安定な足場の上でバランスを取り続けています。

それを一日、一年、何年と繰り返すのが鳶職・足場職人という仕事です。

今回は、鳶職や足場職人に起こりやすい腰痛、膝の痛み、肩や手の不調、振動工具による手のしびれ、夏場の熱中症、高所作業で注意したい怪我まで、東海市のARK接骨院が実際の仕事内容から考えていきます。

目次

鳶職は「重い物を持つ仕事」だけではない

鳶職に必要になる力と注意

鳶職というと、まず「力仕事」というイメージがあると思います。
もちろん足場材などの重量物を扱う以上、筋力は必要です。ただ、仕事を細かく見ていくと、必要なのは単純な腕力だけではありません。

  • 足場材を運ぶ
  • 部材を肩に担ぐ
  • 頭より高い位置へ持ち上げる
  • しゃがむ・跨ぐ・身体をひねる
  • 狭い作業床を移動する
  • 不安定な場所で片脚になって身体を支える
  • 工具を握りながら細かな操作をする
  • 腰道具やフルハーネスを装着した状態で動き続ける

さらに地面の上ではなく、高所で足元を確認しながら行います。
つまり鳶職は、筋力、持久力、握力、バランス、足元の感覚、空間認識、作業判断を同時に要求される仕事だと考えることができます。

熟練すると動きは洗練される。でも身体への負担がなくなるわけではない

熟練した職人ほど、次に必要な部材が分かり、どこに足を置けばいいか、どの角度で持てば楽か、どの順番で組めば無駄がないかを身体で理解しているのだと思います。
一つ一つの動作が洗練されれば、初心者と比べて
計な力を使わずに作業できるでしょう。
でも、熟練したから足場材そのものが軽くなるわけではありません。
むしろ仕事ができる職人ほど一日にこなせる作業量が増えます。戸建て一棟を一人で組めるほどになれば、それだけ多くの部材を運び、持ち上げ、移動し、固定しているということでもあります。
技術によって一回の動作は効率化されても、一日に扱う総重量や反復回数そのものが大きければ、身体には負荷が蓄積します。

鳶職・足場職人に多い身体の不調

腰痛・ぎっくり腰

鳶「職に多い腰の痛みとぎっくり腰

鳶職で負担が集中しやすい場所の一つが腰です。
地面に置かれた足場材を持ち上げる。肩へ担ぐ。高い場所にいる職人へ渡す。中腰で部材を固定する。狭い場所では身体をひねった状態で作業する。
こうした動作が一日に何度も繰り返されます。
特に疲労がたまった時間帯や、寒い朝に急に重量物を持ち上げた時などには、いわゆるぎっくり腰のような急性腰痛が起こることもあります。

お尻から脚への痛み・しびれ

鳶職に多い坐骨神経痛とお尻の痺れ

腰だけでなく、お尻から太もも、ふくらはぎにかけて痛みやしびれを感じる人もいます。

このような症状はいわゆる坐骨神経痛として現れることがありますが、原因は一つではありません。

腰椎椎間板ヘルニアなどが関係する場合もあるため、脚のしびれが強い、力が入りにくい、歩き方が変わってきたといった場合には、「いつもの腰痛」として我慢しないことが大切です。腰椎椎間板ヘルニアについてはこちらでも詳しく解説しています。

膝の痛み

鳶職に多い膝の痛みと原因

膝も鳶職では負担がかかりやすい場所です。
足場や階段の昇り降り、しゃがみ込み、片脚で身体を支える動作、重量物を持った状態での方向転換などが繰り返されます。
特に体重がかかった状態で膝を強くひねれば、半月板や靭帯などを傷める場合があります。
膝が大きく腫れる、引っかかる、伸びきらない、急に力が抜けるといった症状がある場合には注意が必要です。

肩・肘・前腕・手首の痛み

鳶職に多い肩、肘、腕の痛みと痺れ

足場材は腰や脚だけで扱っているわけではありません。
持ち上げる、担ぐ、受け取る、頭上へ差し出す、工具を握るといった動作では、肩、肘、前腕、手首にも繰り返し力が加わります。
仕事終わりになると握力が落ちる、肩より高い位置へ部材を上げる時だけ痛い、工具を使い続けると前腕が張るという場合には、痛い場所だけではなく実際の作業内容まで確認する必要があります。

足首・足部の痛み

鳶職の足首の痛みと足底の痛み

鳶職では足元も重要です。
安全靴を履いた状態で一日歩き、狭い足場を移動し、段差を跨ぎ、時には足先だけで身体の位置を調整します。
足首に不安定感がある、足裏が痛い、以前の捻挫から踏ん張りにくさが残っているという状態は、地上では大きな問題を感じなくても高所では安全性へ影響することがあります。

腰道具は「使っていない時間」も身体にかかっている

使っていないように見えて加重がかかる鳶職の腰

鳶職では、ハンマー、ラチェット、シノ、カッター、スケールなど複数の道具を腰周りに装着します。
作業に必要な道具なので簡単に減らせるものではありません。
ただ、工具を実際に使っている数十秒だけではなく、歩いている時も、足場を昇っている時も、しゃがんでいる時も、その重量は身体にかかっています。
さらにフルハーネス、安全靴、作業着なども加わります。
つまり職人は、自分の体重だけを動かしているわけではありません。
腰周りだけに重量が集中してつらい場合には、道具の配置を変えたり、サスペンダーなどで肩や体幹へ荷重を分散したりする方法が合う人もいます。
仕事で必要な道具に対して「持たないでください」と言っても現実的ではありません。必要な道具を持ったまま、どうすれば負担を一か所へ集中させずに済むかを考える方が実際の現場には合っています。

「膝が痛いけど動ける」と「安全に足場を歩ける」は違う

鳶職の身体を考える時、これは特に重要だと思います。

地上であれば、腰や膝が少し痛くても「これくらいなら動ける」と本人が判断できる場面はあります。

しかし高所では、一瞬踏ん張れない、膝が抜ける、足が上がらない、足首が不安定、手の握力が落ちるといった小さな身体機能の低下が、事故につながる可能性があります。

だから鳶職では、単純に「痛みを我慢できるか」ではなく、「必要な動作を安全に行えるか」まで考える必要があります。

インパクトレンチなどによる手のしびれにも注意

建設現場ではインパクトレンチ、グラインダー、はつり工具など、振動を伴う工具を使用することがあります。
こうした振動へ長期間さらされる仕事では、手や指のしびれ、冷感、痛み、握力低下などを伴う振動障害が問題になることがあります。
特に寒い時に指が白くなる、以前より工具を握りにくくなった、指先の感覚がおかしいといった状態が続く場合には、単なる筋肉疲労だけとは限りません。
症状が続く場合は医療機関で相談してください。
防振手袋などの対策が使用できる作業もありますが、工具や作業内容によっては手袋が回転部分へ巻き込まれる危険もあります。使用する工具の安全基準を優先してください。

真夏の足場は「暑い」だけでは済まない

夏の建設現場では熱中症にも注意が必要です。

特に足場上は日陰が少なく、直射日光を受けることがあります。

そこへフルハーネス、腰道具、安全靴などを装着し、重量物を運びながら身体を動かすため、身体の中でも多くの熱が作られます。

ファン付きウェアは非常に便利な道具ですが、着ていれば熱中症を防げるわけではありません。

めまい、頭痛、吐き気、強い倦怠感、筋肉のけいれんなどが出てきた場合には、まず暑い環境から離れ、身体を冷やして休むことが重要です。

意識がおかしい、自力で水分を取れないといった場合には救急対応を優先してください。

鳶職では暑さで身体能力や判断力が低下すること自体が、高所作業の安全性に影響する点も忘れたくありません。

墜落・転落は普段の腰痛や捻挫とは別に考える

鳶職で避けて通れないのが高所作業です。

高所からの墜落・転落では、頭部、脊椎、骨盤、胸部、腹部、四肢など複数の場所を同時に損傷する可能性があります。

これは「立てるから大丈夫」「痛いけど仕事はできる」で判断する怪我ではありません。

  • 頭を強く打った
  • 意識を失った、または記憶が曖昧
  • 首や背中に強い痛みがある
  • 手足にしびれや力の入りにくさがある
  • 呼吸が苦しい、胸や腹部に強い痛みがある
  • 明らかな変形や強い腫れがある

このような場合には接骨院で様子を見ることを優先せず、速やかな医療評価が必要です。

身体への負担を減らすために「仕事を変える」必要はない

鳶職の腰痛や膝痛について考える時、「重い物を持たないでください」「しゃがまないでください」「高いところへ上がらないでください」と言うだけなら簡単です。

でも、それを全部やめたら仕事になりません。

必要なのは仕事そのものを否定することではなく、同じ仕事をする中で、どこに負担が集中しているのかを探すことです。

  • いつも同じ肩で資材を担いでいないか
  • 腰だけで重量を受けていないか
  • 腰道具の重量が一部分へ集中していないか
  • 疲れて動きが変わった状態で重量物を扱っていないか
  • 足首や膝の痛みをかばって別の場所へ負担を逃がしていないか
  • 休憩後や朝一番に急激な動きをしていないか

現場で実行できない理想論ではなく、仕事の中で変えられる部分を探していく方が現実的です。

ARK接骨院では「現場で何ができないのか」まで確認する

同じ腰痛でも、一日中デスクで仕事をしている人と鳶職では、仕事で必要になる身体能力がまったく違います。

だからARK接骨院では、「腰が痛い」という症状だけでなく、その人の仕事内容まで確認します。

  • 足場材を持ち上げられるか
  • 肩に担いで歩けるか
  • しゃがんで立ち上がれるか
  • 階段や足場を安定して昇降できるか
  • 片脚で身体を支えられるか
  • 頭上へ部材を持ち上げられるか
  • 工具を握り続けられるか
  • 腰道具やハーネスを装着した状態で安全に動けるか

ARK接骨院が普段大切にしているのは、「症状より機能を見る。ただし症状も無視しない」という考え方です。

痛みをゼロにすることだけではなく、その人が仕事で必要としている動きを安全に取り戻すことまで考えていきます。

仕事を休むか、続けるかの二択にしない

職人、とくに一人親方の方に「治るまで全部仕事を休んでください」と言っても、現実的ではない場合があります。

もちろん骨折、重い靭帯損傷、強い神経症状、高所作業の安全性を損なう状態などでは、仕事を中断して医療機関での評価や治療を優先すべきケースがあります。

一方で、すべての腰痛や筋肉痛で完全休止が必要とは限りません。

例えば、高所作業はまだ危険でも地上作業ならできる。重量物の運搬は難しくても軽作業ならできる。作業時間を短くすれば可能ということもあります。

「できないこと」だけを見るのではなく、「今は何なら安全にできるのか」を探す。

スポーツ選手の競技復帰と同じように、仕事への復帰も段階的に考えることができます。

鳶職の身体の不調についてよくある質問

鳶職で腰痛が起こりやすいのはなぜですか?

足場材などの重量物を持ち上げる、中腰や身体をひねった姿勢で作業する、腰道具やフルハーネスを装着した状態で長時間動くなど、腰へ複数の負担が重なるためです。一回の動作だけでなく、一日に何度も同じ動作を繰り返すことも考える必要があります。

膝や腰が痛くても鳶の仕事を続けても大丈夫ですか?

痛みの強さだけでは判断できません。鳶職では高所での踏ん張り、片脚支持、昇降、重量物の運搬などが必要になるため、痛みによって動作が不安定になると安全性にも影響します。高所作業は難しくても地上作業や軽作業なら可能な場合もあるため、「休む・続ける」の二択ではなく、今の身体で安全にできる仕事を確認することが重要です。

まとめ|足場を組む技術と、その身体を守る技術

1200点以上にもなることがある部材を組み合わせ、建物の形に合わせながら足場を作っていく。

一つ部材を入れるたびに安全を確認し、「カン、カン」という音を響かせながら、熟練した職人は驚くほどの速さで建物を覆う足場を組み上げていきます。

私が自宅の外壁塗装で見た職人さんもそうでした。あっという間に屋根まで足場を組み、最後には雨どいまで掃除してくれた。

簡単そうに見えるのは、その人が簡単に見えるほど上手いからなのかもしれません。

でもその仕事の裏側では、腰、膝、肩、手、足へ毎日かなりの身体負荷がかかっています。重量物、高所、振動、暑さという環境も重なります。

鳶職の身体を考えるなら、痛い場所だけを見るのではなく、その身体でどんな仕事を、どれくらいの回数、どんな環境で繰り返しているのかを見る必要があります。

足場を組み上げる技術があるように、その仕事を何年、何十年と続けるためには、自分の身体を壊さず使い続ける技術も必要なのだと思います。

執筆者 柔道整復師 古田 幸大

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