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伊香保温泉に行ってきました。
伊香保温泉の名物は階段!と聞いてはいましたが、実際に行ってみると本当に365段。古き良き温泉街の雰囲気が残り、温泉にも入れるということで、行く前からとても楽しみにしていました。
いざ石段街に着いてみると、思っていたよりもしっかりとした勾配で少し驚きました。しかし中盤あたりまで上り、ふと振り返ってみると景色もよく、そこからは比較的軽快に上っていくことができました。
途中では足湯にも浸かりながらひと休み。最上部にある伊香保神社に着く頃には、しっかり汗をかくほどでした。

階段を上ったあとに入った貸切温泉、石段の両側に並ぶ昔ながらの温泉街、少し離れたところにあるロープウェイから眺める景色。どれも伊香保らしさを感じられるものでした。
そして何より、滞在中に石段街をおおよそ3往復して感じたのが……膝の痛みです。
365段を上って、下りて、また上る。観光として楽しんでいたはずが、途中からは柔道整復師として「階段を上り下りするとき、身体にはどのくらい負担がかかっているんだろう」と考えるようになりました。
この記事では、前半で実際に訪れた伊香保温泉の様子を紹介し、後半では階段で起こりやすい怪我や身体への負担、そして階段をできるだけスムーズに上るための身体の使い方についてお話ししていきます。
伊香保温泉はかなり歴史の古い温泉です。
その起源には、第11代垂仁天皇の時代に発見されたという説や、奈良時代の僧・行基によって発見されたという説があり、はっきりとは分かっていません。ただ、南北朝時代の書物にはすでに温泉が湧いていたことが記されており、古くから温泉地として知られていたようです。
現在の伊香保温泉の形につながる大きな転機は戦国時代です。1576年、長篠の戦いの後に武田勝頼が真田昌幸へ将兵の療養所の造成を命じたとされ、その後1590年には温泉街が湯元から現在の場所へ移っています。
今では観光地として知られる伊香保ですが、歴史をたどっていくと、温泉に入って身体を休める「療養の場所」として発展してきた一面があるわけです。
現在では365段として知られる伊香保の石段ですが、以前は360段でした。
現在の石段は1980年から5年をかけて大改修されたもので、2010年には北側へさらに石段を追加。5段増えて現在の365段になりました。
365という数字には、「温泉街が1年365日、にぎわうように」という願いが込められているそうです。

石段の両側には温泉旅館や飲食店、お土産屋、射的などが並んでいます。
単純に365段の階段を一気に上るというより、店を見たり写真を撮ったり、少し立ち止まったりしながら温泉街そのものを上っていくような感覚です。
下から見上げたときには「結構急だな」と感じましたが、しばらく上ってから後ろを振り返ると、石段の向こうに温泉街と山の景色が広がります。
階段だけを見て歩くより、ときどき後ろを振り返った方が伊香保の面白さを感じられるかもしれません。
石段街の途中には、各宿へ温泉を分配する「配湯桝」を見るためののぞき窓もあります。
こうしたものを眺めながら歩いていると、自然と足を止めてひと休みする時間にもなります。石段の下を実際に温泉が流れているというのも、他の温泉街ではなかなか見ることのできない光景です。伊香保らしくていいですね。

そして最後まで上り切ると、最上部には伊香保神社があります。
途中で休みながらとはいえ、365段。到着した頃にはそれなりに汗をかいていました。
今回宿泊したのは、石段街のすぐ近くにある横手館です。
横手館は宝永年間創業という歴史のある宿で、本館は1920年、大正9年に建築された総檜造りの4階建て。
最近建てられたホテルが「昔ながらの温泉旅館」を再現しているのではなく、本当に長い時間を重ねてきた建物です。

木造の廊下や階段、建具など、現代のホテルとは明らかに違う雰囲気があります。伊香保の石段街を歩いたあと、そのままこうした宿に戻ってこられるのは相性がいいと感じました。

伊香保温泉には現在「黄金の湯」と「白銀の湯」という2種類の温泉がありますが、もともと伊香保にあったのは黄金の湯です。
黄金の湯は含まれる鉄分が空気に触れて酸化することで、黄色から茶褐色へと変化します。伊香保が古くから湯治場として利用されてきた歴史とも深く関わる温泉です。
横手館では、この黄金の湯を大浴場や貸切家族風呂で楽しむことができます。公式案内では加温はしているものの加水はせず、循環もさせない掛け流しとなっています。
今回は貸切の温泉と朝一の内風呂どちらも堪能させていただきました。
365段を上ったあとに入る温泉は、当然ですが気持ちがいい。石段を歩くことと温泉に入ることがセットになっているような温泉地でした。


伊香保温泉、黄金の湯の泉質はカルシウム・ナトリウム-硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物温泉(中性・低張性・温泉)
pH値は6.2です。湧出時は無色透明ですが、空気に触れて鉄分が酸化するため、特徴的な茶褐色(黄金色)に変わります。
鉄含有量としては含鉄泉ではありませんがほのかに金気を感じるお湯でした。
伊香保の石段には、歌人・詩人として知られる与謝野晶子の「伊香保の街」が刻まれています。
せっかく来たのだから写真に残しておきたいと思い、これを探しにもう一度石段街へ。

一度宿へ戻ったあと、今度はコンビニへ行くためにまた上り下り。
結果的に、滞在中だけでも石段をおおよそ3往復することになりました。
365段を3往復ですから、単純計算すると約2,190段分の上り下りです。
最初に上ったときは比較的軽快に歩けていたのですが、さすがに何度も繰り返していると身体にも変化が出てきました。
特に感じたのが、膝の痛みです。
そこでここからは少し視点を変えて、柔道整復師として「階段」という動作について考えてみます。

普段何気なく使っている階段ですが、平地を歩くのとは身体の仕事がかなり違います。
平地歩行では身体を主に前へ運びますが、階段ではそれに加えて、自分の体重を一段ずつ「上」へ持ち上げる必要があります。
そのため膝だけではなく、股関節や足関節も大きく動かし、大腿四頭筋、殿筋、ふくらはぎなど多くの筋肉を使います。
登山をする方であれば「獲得標高」を考えると分かりやすいかもしれません。一段だけならわずかな高さでも、それを何百段、何千段と繰り返せば、身体を上へ運んだ量はどんどん積み重なります。
獲得標高や昇降回数が増えれば当然疲労も大きくなり、普段は問題のない人でも膝周囲に痛みを感じることがあります。
階段というと「上る方が大変」と感じる方が多いと思います。
上りでは、重力に逆らって自分の身体を持ち上げます。上の段に足を置き、膝や股関節を伸ばしながら身体を一段上へ運ぶ動作です。
一方、下りでは身体を持ち上げる必要はありません。
その代わり、重力によって下へ落ちていく身体を筋肉で少しずつ受け止めながら、次の段へ足を運ばなければなりません。
つまり、上りは身体を持ち上げる仕事、下りは身体が落ちるのを制御する仕事です。

下りでは特に大腿四頭筋が、力を出しながら引き伸ばされる「遠心性収縮」という働きを使ってブレーキをかけます。
膝蓋骨と大腿骨の間にかかる力も、平地歩行より階段昇降の方が大きくなることが研究で示されています。
ただし「階段を下りると必ず体重の○倍」というように単純化できるものではありません。階段の高さ、速度、体格、身体の使い方によって負担は変わります。
私の場合も、一度階段を上った瞬間に膝を傷めたわけではなく、365段の往復を何度も繰り返していく中で徐々に痛みを感じるようになりました。
階段で注意したいのは、疲労や膝の痛みだけではありません。
踏み外しや転倒によって、さまざまな怪我が起こる可能性があります。
平地での転倒と違い、階段では一度バランスを崩すと、そのまま数段下へ転落してしまう可能性があります。
特に下りでは、足を置く場所を確認しながら身体を制御する必要があります。
疲れているとき、雨などで石段が濡れているとき、スマートフォンを見ながら歩いているときなどは、普段以上に足元へ細心の注意を払ってください。
「365段上れたから大丈夫」ではありません。帰りに下りるところまでが階段です。

私にとって伊香保の365段は「せっかく来たのだから上ってみよう」と思える観光名所でした。
しかし、誰にとっても同じように見えているわけではありません。
膝や股関節に痛みがある人、高齢者、片麻痺などで左右の脚の機能が異なる人、視覚に障害がある人などにとっては、同じ365段が大きな移動の障壁になります。
階段を上り下りするために必要なのは筋力だけではありません。
こうした機能が組み合わさって初めて、何気なく階段を上り下りできます。
健常なときには意識することもありませんが、どれか一つが低下すると階段の難易度は一気に上がります。
では、階段をできるだけ安定して上るにはどうすればいいのでしょうか。
まず、つま先だけを段に引っかけるのではなく、可能な範囲で足底をしっかり踏面に乗せます。
足を置く面積が広くなれば、身体を支える土台も安定します。
身体が後ろに残ったまま、膝の力だけで身体を持ち上げようとすると負担が集中しやすくなります。
体幹を適度に前へ運び、股関節を伸ばす力、つまりお尻の筋肉も一緒に使って身体を上へ運びます。
上段に乗せた脚だけで身体全部を引き上げようとする必要はありません。
下段に残った脚でも床を押し、次の一歩につなげることで負担を分散できます。
伊香保の石段にも一部には手すりがあります。
疲労してきたときや痛みがあるとき、足元が滑りやすいときには遠慮なく使いましょう。
階段は筋力を競う場所ではありません。安全に目的地まで移動することの方が大切です。
すでに片方の膝や脚に痛みがある場合、無理に左右交互で階段を上り下りする必要はありません。
一段ごとに両脚を同じ段へ揃える「一段一足」で移動する方法があります。
覚え方は比較的簡単です。
上るときは、痛くない脚から。
下りるときは、痛い脚から。
上りでは痛くない側を先に上段へ乗せ、その脚を使って身体を持ち上げたあとに、痛い側を同じ段へ揃えます。
下りでは反対に、痛い側を先に下段へ出します。上段に残っている痛くない側で身体を支えながらゆっくり下ろし、その後に痛くない側を揃えます。
もちろん伊香保の365段すべてをこの方法で上り下りするとなると、時間も体力も必要なので現実的には厳しい場合もあります。
それでも短い階段であれば試す価値がありますし、手すりと組み合わせることで移動しやすくなる場合があります。
強い痛みがある、脚に力が入らない、ふらつきが強いといった場合には、階段を無理に利用しないことも大切です。

もう一つ、膝への負担を考えるうえで無視できないのが体重です。
階段では、自分自身の身体を何度も持ち上げ、下りではその身体を受け止めています。
特に過体重・肥満を伴う変形性膝関節症では、減量によって膝の痛みや身体機能が改善することが知られています。
研究では、体重を10%以上減らした人では、それより減量幅が小さかった人と比較して、膝の痛みや身体機能、膝関節にかかる圧縮力などに、より大きな改善がみられたという報告があります。
そのため、「体重の10%」という数字は一つの目安として使われています。
もちろん、これは「膝が痛ければ痩せれば治る」という意味ではありません。
痩せている人でも膝は痛くなりますし、靭帯損傷、半月板損傷、炎症など別の原因があるものを減量だけで解決することはできません。
ただ、例えば体重80kgの人であれば10%は8kgです。
8kgの荷物を持って何百段も階段を上る場合と、その荷物を持たずに上る場合を想像すると、体重が膝への負担を考える一つの要素になることはイメージしやすいと思います。
階段では、平地歩行よりも膝や股関節を大きく曲げ伸ばししながら、自分の体重を持ち上げたり受け止めたりします。そのため、膝周囲の筋肉や関節にかかる負担も大きくなります。
特に長い階段を何度も往復した場合は、普段痛みがない人でも疲労によって膝周囲に痛みや違和感が出ることがあります。
上りと下りでは負担のかかり方が違います。上りでは、自分の身体を一段上へ持ち上げるために膝や股関節の筋肉が大きな力を発揮します。一方、下りでは重力によって落ちていく身体を筋肉で受け止めながら動く必要があります。そのため、膝に痛みがある人では下りの方がつらいと感じることも少なくありません。
どちらが必ず負担が大きいとは一概に言えず、階段の高さや速度、身体の使い方、もともとの膝の状態によって変わります。
片側の膝や脚だけに痛みがある場合は、
上るときは痛くない脚から、下りるときは痛い脚から動かす方法があります。
一段ごとに両脚を同じ段へ揃えることで、痛い側への負担を減らしやすくなります。手すりがある場合は併用してください。
つま先だけを段に引っかけるのではなく、できる範囲で足裏を安定して段に乗せます。また、身体を後ろに残したまま膝だけで持ち上がろうとせず、少し身体を前へ移しながら股関節や殿部の筋肉も使うことがポイントです。
疲れている場合や痛みがある場合は、手すりを利用したり、一段ずつゆっくり上ったりすることも有効です。
今回伊香保温泉へ行って感じたのは、この365段の石段そのものが温泉街の一部だということでした。
黄金の湯に入ること、横手館の古い木造建築の中で過ごすこと、石段沿いのお店を眺めること、途中で振り返って景色を見ること。
そのすべてが階段を中心につながっています。
365段を一気に上る必要はありません。
途中で店を見て、景色を眺め、疲れたら休む。そうやって石段の温泉街そのものを楽しみながら上るのが、伊香保らしい歩き方なのだと思います。
私の場合は与謝野晶子を探し、コンビニにも行き、気付けばおおよそ3往復。
最後には膝が痛くなりましたが、そのおかげで普段何気なく使っている「階段」という動作について改めて考える機会にもなりました。
温泉も、街並みも、景色も、そして365段の石段も含めて楽しめる伊香保温泉。
古き良き温泉街を歩きたい方には、ぜひ一度訪れてみてほしい場所でした。
執筆者 柔道整復師 古田 幸大
日本各地の温泉を柔道整復師目線でレビューしています。
