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背中や肩に丸い赤紫色の跡が残っている人を見て、「あれは何だろう?」と思ったことはないでしょうか。
これはカッピング、日本では吸玉(すいだま)や吸角などと呼ばれる施術で、カップの中を陰圧にして皮膚や皮下組織を吸引する方法です。
肩こりや腰痛、スポーツ後の疲労などを目的に使われることがあり、オリンピックなどでトップアスリートが使用したことで世界的にも広く知られるようになりました。
一方で、「血流が良くなる」「老廃物が出る」「毒素を排出する」「濃い跡ほど身体が悪い」「筋膜を剥がせる」など、さまざまな説明がされているのも事実です。
では、カッピングには本当に医学的な効果があるのでしょうか。
現在の研究を総合すると、一部の筋肉や関節の痛みに対して短期的に楽になる可能性や、局所の血流・皮膚温などが変化することは確認されています。
しかしその一方で、プラセボとなる偽のカッピングと比較すると効果の差が小さくなる研究も多く、長期的な治療効果、筋肉の修復促進、疲労回復、スポーツパフォーマンス向上まで証明されているわけではありません。
今回は東海市のARK接骨院が、カッピング(吸玉)について肯定的な研究と否定的な研究の両方を確認しながら、現在分かっていることと、まだ分かっていないことを整理します。
カッピング(Cupping Therapy)と吸玉は、基本的には同じ系統の施術を指します。
カップを皮膚へ密着させ、内部の空気を抜いて陰圧を作ることで、皮膚や皮下組織を外側へ引き上げます。
一般的なマッサージが身体の外側から組織を押す刺激なのに対して、カッピングは吸引によって組織を外側へ引く刺激という点が特徴です。
カッピングにもいくつか種類があります。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| ドライカッピング | 皮膚を傷つけず、カップで吸引する一般的な方法 |
| ファイヤーカッピング | 火を利用してカップ内部の陰圧を作る方法 |
| ウェットカッピング | 皮膚へ傷を付け、吸引とともに血液を排出する方法 |
| スライディングカッピング | オイルなどを使用し、吸着したカップを動かす方法 |

同じ「カッピング」という名前でも刺激方法やリスクが異なるため、研究結果や安全性を考える際には分けて考える必要があります。
まず、カッピングに対する肯定的な研究結果から確認します。

研究では、カッピング後に局所の皮膚血流、皮膚温、血液量、酸素化などが一時的に変化することが確認されています。
カップの陰圧によって皮膚や皮下組織が引き上げられ、局所の血管へ機械的な刺激が加わるためです。
また、一部の研究では肩や首、腰などの慢性的な筋骨格系疼痛に対して、施術直後から短期間の痛みが軽減したという結果も報告されています。
2025年にBMJ Openに掲載された慢性筋骨格痛に関するメタアナリシスでは、10件のランダム化比較試験を統合した結果、施術直後の疼痛はカッピング群で有意に低下していました。
特に頸部・肩周辺の疼痛では比較的大きな改善が報告されています。
関節可動域(ROM)についても、施術直後に動かしやすくなったという研究があります。
したがって、「カッピングを受けたあとに肩が軽くなった」「腰が動かしやすくなった」という経験そのものを否定する必要はありません。
短期的な症状緩和やコンディショニングの一つとして利用できる可能性はあります。
ここからが、カッピングの研究を読む上で非常に重要な部分です。
カッピングを「何もしない人」と比較すると、痛みが大きく改善する研究があります。
しかし、見た目は同じでも十分な陰圧がかからないシャムカッピング(偽カッピング)と比較すると、その差がかなり小さくなる傾向があります。

2020年の慢性疼痛に関するメタアナリシスでは、無治療群との比較ではカッピングに比較的大きな疼痛軽減が認められました。
ところがシャムカッピングとの比較になると、統計学的に明確な差を示せませんでした。
さらに2026年に発表された、ドライカッピングとプラセボカッピングだけを比較したシステマティックレビューでも、短期的な疼痛改善は100点満点で平均約10点の差にとどまり、研究者が臨床的に意味のある差として設定した15点には達していません。
長期的な疼痛や身体機能についても、明確な優越性は確認されませんでした。
これは「カッピングは全部プラセボだから意味がない」という話でもありません。
皮膚への刺激、吸引される感覚、施術者とのコミュニケーション、「施術を受けた」という期待感なども、痛みの感じ方へ影響します。
痛みは単純に組織の損傷量だけで決まるものではないためです。
重要なのは、「施術後に楽になった」という事実と、「陰圧によって病変そのものが治った」という説明を分けることです。
カッピングについてよく聞くのが、「血流が良くなる」という説明です。
これは完全な間違いではありません。
レーザードップラーや近赤外分光法などを用いた研究では、カッピング後に局所の皮膚血流や酸化ヘモグロビンなどが変化することが測定されています。
ただし、ここには大きな注意点があります。

「局所の血流が一時的に変化した」ことと、「筋肉や腱の修復が速くなった」ことは同じではありません。
血流が増えたという一段階目の事実から、「疲労物質が流れる」「筋肉が早く治る」「怪我から早く復帰できる」と二段、三段先まで結論を伸ばすには、それぞれ別の臨床研究が必要です。
現時点では、そこまでの因果関係は十分に証明されていません。
吸玉でもっとも特徴的なのが、施術後に残る丸い赤色や紫色の跡です。

この跡について、「毒素が浮き出た」「老廃物が溜まっている」「悪い血が出てきた」と説明されることがあります。
しかし現代医学では、主として陰圧によって血管が拡張し、一部の毛細血管から赤血球が周囲の組織へ漏れ出した結果として生じる紅斑・点状出血・紫斑として説明できます。
つまり、軽い内出血と共通する現象です。
血管外へ出た赤血球は、その後マクロファージなどによって処理され、ヘモグロビンが分解されながら徐々に色が変化し、吸収されていきます。
伝統医学には「瘀血」という考え方がありますが、それを現代医学の「毒素」「老廃物」「悪い血」とそのまま置き換えることはできません。
また、跡が濃いほど身体が悪い、毒素が多い、カッピングがよく効いたという科学的根拠もありません。
むしろ陰圧を強くすると、毛細血管の破綻や浮腫が増えることが確認されています。
「濃い跡を作ること」を施術の目的にする必要はありません。

「カッピングでデトックスできる」「老廃物を排出できる」という表現もよく見かけます。
しかし、皮膚を傷つけないドライカッピングでは、そもそも体内の物質が皮膚を通って外へ排出される経路がありません。
特定の「毒素」がカッピングによって除去され、その結果として症状が改善したことを証明した信頼性の高い臨床研究も確認されていません。
ウェットカッピングでは血液そのものを体外へ出しますが、その血液にだけ「悪い物質」が選択的に含まれていると証明されているわけでもありません。
したがって、現代医学的にはカッピングを「毒素を排出する治療」と説明する根拠は不十分です。
カッピングの研究で比較的多く検討されているのが、首・肩や腰の慢性的な痛みです。
慢性頸部痛や腰痛では、無治療群と比較して短期的な疼痛軽減を示した研究が複数あります。

一方、慢性腰痛に対して実際のドライカッピングとシャムカッピングを比較したランダム化試験では、疼痛、身体機能、可動域、QOLなどで明確な優越性が確認されませんでした。
腰痛に関するメタアナリシスでも、2~8週程度では有利な結果が出る一方、1か月以降や3~6か月では差が小さくなる結果がみられています。
つまり、短期的な症状緩和を目的とした補助的な選択肢にはなり得ても、腰痛や肩こりの原因そのものを治す治療として確立しているわけではないというのが現在の位置づけです。
競泳選手をはじめ、トップアスリートがカッピングを利用している姿を見たことがある人も多いと思います。

スポーツ現場で使用されていること自体は事実ですが、トップ選手が使用していることと、効果が科学的に証明されていることは別です。
2025年には、運動後の遅発性筋肉痛(DOMS)に対してカッピングを行い、24時間後の痛み、可動域、スプリント、跳躍、CKやLDHなどで改善を示した研究も報告されています。
これは肯定的な結果として興味深い研究です。
ただし対象人数が少なく、シャムカッピングとの比較ではなく、追跡も24時間でした。
一方、81名のレクリエーションランナーを対象とした別の研究では、ランニング後にカッピングを行っても、72時間の筋肉痛、疲労感、主観的回復、一脚ジャンプなどに明確な改善は確認されませんでした。
CK値、血中乳酸、筋力、ジャンプ、スプリントなどの客観的指標についても研究結果は一致していません。
選手本人が「身体が軽い」「動きやすい」と感じることにはコンディショニング上の価値があるかもしれません。
しかし、カッピングによって筋損傷の修復が早まり、競技復帰が早くなる、パフォーマンスが向上するとまでは現在のエビデンスから言えません。
ドライカッピングでは、多くの場合、赤みや紫斑、軽い圧痛など一時的な皮膚変化で終わります。

しかし「安全な民間療法だから何をしても問題ない」というものではありません。
などが生じることがあります。
ファイヤーカッピングでは熱傷、ウェットカッピングでは出血、感染、血液を介した感染症、反復することによる鉄欠乏性貧血など、さらに別のリスクが加わります。
抗凝固薬を使用している人、出血傾向や貧血がある人、皮膚感染や開放創がある部位、湿疹や乾癬が強く出ている場合などは特に慎重な判断が必要です。
強く吸えば吸うほど効果が高くなるという根拠もありません。
カッピングについて調べると、「すごく効く」という情報と「全部プラセボ」という情報の両方が出てきます。
現在の研究を見る限り、どちらか一方だけで説明するのは適切ではないと考えています。
局所の血流や皮膚温が変化すること、短期間の疼痛や可動域が改善する人がいることには一定の根拠があります。
その意味では、本人が心地よく感じ、皮膚トラブルなどがなく、目的を理解した上で行うのであれば、コンディショニングの選択肢の一つにはなり得ます。
一方で、痛みが軽くなったことを「筋膜の癒着が剥がれた」「毒素が抜けた」「傷ついた筋肉が修復された」と説明するには根拠が足りません。
例えば何度カッピングをしても同じ場所が張るのであれば、考えるべきなのは「もっと強く吸うこと」だけではありません。
関節の動き、筋力、姿勢、仕事の負荷、練習量、フォームなど、なぜその場所へ負担が集中しているのかを見る必要があります。
カッピングで症状を一時的に変えることと、症状を繰り返している原因を評価することは別の話です。
基本的には同じ施術を指します。「カッピング」はcupping therapyから来た呼び方で、日本では吸玉や吸角などとも呼ばれてきました。カップ内を陰圧にして皮膚や皮下組織を吸引する点は共通しています。ただしドライカッピング、ウェットカッピング、ファイヤーカッピングなど方法には違いがあります。
一部の研究では、慢性的な首・肩・腰などの痛みが短期的に軽減したり、関節可動域が一時的に改善したりする可能性が報告されています。ただしシャムカッピングと比較すると差が小さくなる研究もあり、長期的な機能改善や組織修復、疲労回復を確実に促進する治療としては確立していません。
現在の医学ではそのようには考えられていません。吸玉の跡は、陰圧による血管拡張や毛細血管から赤血球が周囲へ漏れることで生じる紅斑や紫斑、皮下出血として説明できます。色が濃いほど毒素が多い、身体が悪い、施術効果が高いと判断できる科学的根拠はありません。
あります。ドライカッピングでは赤みや紫斑、圧痛などがみられ、強すぎる吸引や長時間の施術では水疱、皮膚損傷、色素沈着などが生じることがあります。ファイヤーカッピングでは熱傷、ウェットカッピングでは出血や感染、反復施術による貧血などのリスクも加わります。
「週に何回なら効果的」という万人共通の最適な頻度は確立していません。研究でも吸引圧、施術時間、回数が統一されておらず、繰り返すほど効果が高まることも証明されていません。皮膚の状態や施術後の反応を確認し、痛みや不調が続く場合には吸玉だけで対処せず原因を確認することが重要です。
現在の研究では、カッピング・吸玉によって局所の血流や皮膚温が変化し、一部の筋骨格系疼痛や関節可動域が短期的に改善する可能性があります。
一方、シャムカッピングと比較した研究では差が小さく、長期的な疼痛改善、機能回復、組織修復、疲労回復、スポーツパフォーマンス向上まで確立しているとは言えません。
また、吸玉の赤紫色の跡を「毒素」「老廃物」「悪い血」と説明したり、跡が濃いほど効果が高いと判断したりする医学的根拠もありません。
カッピングを利用するのであれば、万能な治療法としてではなく、短期的な症状緩和やコンディショニングを目的とした補助的な選択肢の一つとして考えるのが現在のエビデンスには最も合っています。
そして同じ場所の痛みや張りを繰り返しているのであれば、「吸えば楽になるか」だけでなく、なぜそこへ負担が集まっているのかを確認することも大切です。
執筆者 柔道整復師 古田 幸大
